「ぼくは人間」がちょうのがっちゃんに見る「幸せ」の形。

 神戸市立王子動物園(同市灘区王子町3)に、飼育員らから「自分を人間と思っている」と評されるガチョウの雄がいる。放し飼いされている広場で群れに加わることはなく、若い女性に体をすり寄せたり、飼育員の膝に乗ったり-と、興味を示すのは人間ばかり。3月に伊丹市で発生した鳥インフルエンザの感染予防のため、約30羽の鳥と一緒のおりに一時収容された際には、飼育員を心配させるほどの落ち込みぶりだったという。(那谷享平)

2009年5月に同園で生まれたガチョウの「がっちゃん」。動物と触れ合える広場「動物とこどもの国」で、別のガチョウ2羽やアヒルなどと放し飼いにされている。飼育員らの後ろをてくてく歩く愛らしい姿が人気で、がっちゃん目当てに同園を訪れるファンもいるという。 飼育員たちが注目するのは、その“鳥ばなれ”した行動だ。人の膝に進んで乗ったり、体をすり寄せたりするのは「本来、鳥のしぐさではない」と獣医師の花木久実子副園長。「人工的に飼育されたひなが人間になつくことはあるが、成長すると普通は人間から距離を取るようになるのに…」と首をかしげ、他の飼育員たちも「絶対に自分を鳥ではなく人間だと思っている」と口をそろえる。

 人間的な振る舞いで飼育員も魅了するがっちゃん。だが、3月1日に伊丹市内で鳥インフルエンザの発生が確認されると、人気者の生活は暗転した。

 同園は飛来する鳥との接触を避けるため、放し飼いにしている鳥をおりに収容するなどの対策を同月3日から実施。がっちゃんもアヒルや鶏など約30羽と一緒に、入園者が入れないおりに移された。他の鳥が身を寄せ合って暮らす中、がっちゃんは完全に孤立。うなだれたようにじっとすることが多く、飼育員を見つけると、出してと言わんばかりに鳴いたという。

 鳥インフルエンザ対策は先月26日に解除。鳥ばかりに囲まれる孤独な生活を2カ月近く送ったがっちゃんも、晴れて元の広場に戻された。すぐに元気になり、大型連休中も連日、子どもたちに囲まれている。相変わらず他の鳥には近づかないが、花木副園長は「おりにいる間はつらかったと思うけど、今は生き生きしている」と目を細めた。時計(2018/5/2 14:30神戸新聞NEXT

 

 仲間とともに暮らす事が幸せなのか、「人間」と錯覚して生きるのが「幸せ」なのか。「幸せ」の形は、きっといろいろあり、他人が決められないものなのかもしれない。不可抗力での「錯覚」がきっかけとはいえ、人間の中で生きたいと願うがっちゃん。もちろん「意図的」に錯覚させるのは言語道断だが。

 今の世の中、ともすれば、「・・・・するべきだ」的な「強制的な」価値観の中、生きがちだが、先を見すぎず、一日一日、生きていく。ささやかな、普段、気にしない程度の中に「幸せの形」が潜んでいるのかも。社会で生きていく上でのストレスのほとんどは「人間関係」であるともいう。集団にいられないことからくる「孤立感」「孤独感」。または「承認欲求」からくる「胸かきむしる程の嫉妬心」など。

 がっちゃんの「生き方」が、自分たちに、「集団」へ帰属するだけが「幸せの形」ではないかもしれないと、教えてくれる。